2011 もてぎ 100km サイクルマラソン

ホームストレート左脇にひっそりと設置された残り周回数の看板を横目に考える。
あと9周か。そろそろ動きがあるんだろうか。もう少し前に出ておくべきか。


僕は先頭集団の、振り返ったわけではないので確実ではないけれど、おそらく中程より少し後ろに位置取りしていた。この辺はかなり集団の厚みが増しており、コーナーはコース一杯に集団が広がるためすごく気を使う。真ん中にいれば一番パワーを使わずに済むんだろうけれど、なにかあった時に逃げられないのが怖くて、集団左端を定位置にしていた。
右側から追い越しをかけることになっているので、僕のすぐ左を一般の、というか先頭集団ではない人達が走っている事になる。コーナー時はほんとうにギリギリ脇をすり抜ける事があったりして、きっと恐怖を与えているに違いない人達にごめんなさいと心の中で謝る。もっと余裕を作りたいところだけれど、残念ながら僕の技量と足では他の選択肢はない。先頭集団はちょっとした椅子取りゲームだ。隙を見せればどんどん後方に下がってしまう。誰もがより良い、つまりより安全でより前方でよりパワーがいらないポジションを求めているのだ。この集団にいる以上、僕もよい椅子を求めつづけなければならない。


たしかコース内に唯一存在する短い登りの直前だろうか。同じような位置に展開していたtwitter繋がりのO2maさんに、逃げが出来ている事を教えられた。


ちなみに彼はピチピチの20代で、私より後にロードに乗りはじめたというのに、裏磐梯ヒルクライムでは後塵を拝してしまった。後数年もすれば手がつけられなくなるのではないだろうか。でも今はまだ、平坦基調なコースでまで負けるわけにはいかない。彼もまたライバルの一人なのだ。


ともかく逃げがあるなら見逃すわけにはいかない。この位置からは逃げには届かないだろうが、たぶん集団の先頭は追おうとしているだろう。少なくともその動きには加わらねばならない。
コースは上り坂に入る。この集団にいる誰もがそうだろうが、まだまだ皆足を温存した緩いペースで登っているので、本気で踏めば足と引き換えに一気に前方に展開できる。
僕はサドルから腰を上げ、軽くオルカを左右に振りながらダンシングを開始した。ぐん、とスピードが上がる。なんだかいつもの通勤の時帰りに通る、市ヶ谷から靖国神社前に抜ける緩い坂道を登っているかのようだ。不思議な事にあの坂は、登りなのにすごくスピードが乗るのだ。ひょっとしてオルカはあのくらいの斜度に最適化されたヒルクライムマシンなのかもしれない。
平地より楽かも・・・そんな錯覚を覚えながら先頭近くまでポジションを上げる。
逃げは見えない。あとであちこちのblogを見て知ったのだが、ちょうどこの上り坂のあたりで逃げを吸収していたようだ。
それにしても、O2maさんや一緒にOTRから参戦しているK山さん、そして他の速い人達もそうなのだろうが、回りがよく見えていることにびっくりする。正直僕は前走者の後輪を見るので手一杯だ。しかし回りが見えないことには展開にからむことはできない。ここにまたひとつ課題ができた。


さて、逃げがないのは結構な事だが、問題はこの上げすぎたポジション。ここまで上がるとさすがに先頭交代に加わらないわけにはいかない。案の定ダラダラ続く緩い下りの途中でお鉢がまわってきた。そしてこの集団を率いるとなれば自然と力が入る。気がつくと先頭を引き継いだ時から自然と5kmくらいスピードが上がっている。念のため後ろをチラリと振り返ってみると、あろうことか誰もついてきていない!


形だけ見れば、一人逃げしつつある状況だが、とても一人で逃げきれる足はない。せめて5人、いや10人くらいいればなんとか逃げ集団を形成できるのだろうが、誰の目からも僕が勝馬には見えないのだろう。すぐつぶれる逃げに乗りたがる人がいるはずがない。


ローディにとってはおそらく有名、そして僕にとってはバイブル、なアニメ「アンダルシアの夏」の中で、主人公ペペは、自分の逃げに誰も乗らないことに憤って
「俺なんかちっとも脅威じゃないってのかよ!」
と吐き捨てていた。
レベルは違うがあの気持ちだ。無名ってつらいな・・・と歯噛みする。


ペペ程の足がない僕は大人しく負けを認めてペダリングを止める。一人で走っていても足を無駄に削るだけだ。再度集団に戻った僕は、今度は速度を上げすぎないよう注意して先頭を回す。
まずいことに、今の無駄なパフォーマンスで随分足を使ってしまった。対して回りは余裕たっぷりに見える。本当はもっと後ろに下がるべきなのだろうが、ここで下がって本当の勝負どころに絡めなくなることが嫌だった。それでは結局昨年からなにも進歩していないことになるし、なによりつまらない。
無駄足かもしれないが、とにかく集団前方に位置しながら周回を重ねる。


残り4周くらいの後半の下り坂の終わりだったろうか。左からヘルメットカバーを付けたよっしーさんがすごい加速で追い越していった。これは行くしかない!すかさず尻に張り付く。張り付くばかりでは申し訳ないので、前に出てみる。必死に漕ぐ。そしてちらりと振り返る。


あろうことか、また一人逃げになっている!


ペペ・・・無名ってしんどいよ。


「俺なんか・・・」もう一度あの名台詞を噛み締めながら集団に戻る。まずい、左足にツリの兆候が現れている。回復する機会もないままに、また例の上り坂を迎える。状況は絶望的だ。坂が果てしなく急に感じる。ここは不動峠最後の激坂か?ペダルはもう軽やかには回らない。坂の途中でついに僕は前走者からちぎれる。
これは今まで味わった事のない恐怖だった。自分が遅れる事へ、ではない。集団を僕が分断してしまう事への恐怖だ。不甲斐なくてすみません・・・。
幸いにも遅れだした僕の左右からガンガン後続者が抜いていき、中切れが発生する事はなかった。前方に展開していたのが幸を奏したのか、その流れが途切れる、つまり先頭集団からちぎれる前に坂を登りきる事ができた。ここからはダラダラ続く下りだ。しんどいがなんとか着いていくことが出来る。K山さんが鮮やかに僕をパスして行く。まったく疲れを感じさせない。クレバーな走りに徹していたのだろう。さすがとしか言いようがない。


正直言って、もうちぎれてしまおうか、と思った。足が重すぎる。あと2周なんてとても耐えられない。だけどちぎれそうになる度に、僕の後ろについているであろう人達を中切れさせるわけにはいかない、となんとかしがみついた。幸いにして要所要所さえ力を入れれば、あとは薄くなった集団の中で坂を下りきる前に足を多少なりと回復させる事ができた。これなら後2周持ちそうだ。ここまで集団で来たということはスプリント勝負になるのだろう。しかしこの有様ではとても加われそうにない。でも僕はもう満足だ。十分にレースを味わった。何人か僕の前に同じ色のゼッケンが見えるが、負けてもまったく悔いはない。とにかくなんとか最後までこの集団にくらいついて行こう。


いよいよ最終周回、そして気がつけば最終コーナー。ここを抜ければもうこんな苦しい思いとはおさらばだ。ちょっとスプリントの真似事でもしてみようかな・・・
そんなふとした一瞬に、僕の右前方で落車が起きた。かなり激しいやつだ。
何人かが巻き込まれる様子までが視界の端に写る。もう少しだったのに・・・レースは楽しいが、やはり怖い。


僕の前方に同クラスのゼッケンが居る事はわかっていたが、余裕ゼロの激マジスプリントする事はせず、2011年もてぎ100kmサイクルマラソンを締めくくるゴールラインを越えた。

                                                1. +


表彰式だ。
2年前に憧れ、そして昨年立てなかった表彰台の上に、僕は立った。
2番目に高い台から見下ろすと、心なしか前回表彰された一昨年よりギャラリーの数が少ないような気がする。だいたい12時半ごろまで走っていて、表彰式が1時からという、異例の早さのためだろうか。しかしできるだけ早く家に帰り着きたい身としては、この采配はとてもありがたい。


一昨年は5位で、台のないところから表彰台に登った人達の誇らしげな顔を見上げていた。
昨年は3位だが、娘が風邪で表彰式には出られず後ろ髪を引かれながらトンボ帰りした。
ようやく今年、2位で表彰台に立つことができた。見晴らしがよくて気分がよい。なんて素敵な場所だろう。
しかし左隣を見ると、さらに一段高い場所がある。


「どうしてこんなにも一歩一歩なんだろう」
モーグル上村愛子選手の言葉が思い起こされる。表彰台に登るだけで十分だと思っていたけれど、やっぱりここまで来ると欲が出る。結局今回も届かなかった。なんでこう一歩一歩なんだ・・・。
だけど、と思い直す。
僕は今38才だ。もう一年このクラスで走ることができる。
また来年正月にレースに出られるかはわからないけれど、もし出られたら、その時こそ一番上を目指そう。


そう心に決めると、右手に持ったシクラメンを、最前列でカメラを構えてくれているK山さんに向かい高々と掲げて見せた。

                          • -

リザルト
タイム :2:29:38.498(TOP + 0:00:02)
順位 :男子C(35-39才) 2位
平均時速:40.41km/h


使用機材
フレーム :ORBEA ORCA '09 57cm 
ホイール前 :BONTRAGER AEOLUS 5.0 ACC 
ホイール後 :BONTRAGER AEOLUS 5.0 + PowerTap 2.4SL+ 
サドル :BONTRAGER Inform R
ステム :BONTRAGER XXX LITE
ハンドル :BONTRAGER XXX LITE
シートポスト :BONTRAGER RACE X LITE ACC
タイヤ前後 :Continental Attack & Force 120psi 
ペダル :TIME ICLIC CARBON 
コンポーネントDURA-ACE 7900(F:53x39T R:23-11T クランク長175mm)
サプリメント :グリコ CCDドリンク&クエン酸BCAA(半分) 500ml



自転車部門で30位

にほんブログ村 自転車ブログへ自転車通勤部門で10位ロードバイク部門で27位

次はヒルクラか!
励みにしていますので、上のバナーをポチ!お願いします。