CSC 5時間耐久レース - 後半戦

  • 19周 〜 22周

ラップタイムは12分台から13分台へとズブズブ沈んでいく。
当然だ。もう全然足は回っていない。
毎回通る平坦なホームストレートでも20km/h出ているかどうか。脇を通りすぎていく他の選手にドラフティングする気にもなれない。
しかしここまで周回を重ねてきた経験から、大分エコな走り方がわかってきた。


まず最初の登りはそれなりに頑張る。頑張って良い。短いからだ。
途中に設置されたミストシャワーを思う存分浴びたら、ダンシングで加速する。
すぐ下りに入るので、ここでの出し惜しみは必要ない。
続く下りはなるべくエアロなポジションをとって、ペダルを漕がないで惰性で降る。そうすると、50km/h超で最初のヘアピンカーブに突入することになるが、コーナーリング中に追いつきそうな前走者さえいなければノーブレーキで突っ込んで良い。
慣れてくると、先にコーナーに入ろうとする人が減速しないでくれ、僕より速く抜けてくれ、と願うようになる。そうじゃないと僕の貴重な運動エネルギーをブレーキに食わせざるを得ないからだ。
曲がりきって秀峰亭の脇をすぎるまでの緩い登りは全力でダンシングする。ここも登りきればすぐ下りだ。弱りきった足でも10秒程なら耐えてくれる。
ここから先の下りにある連続カーブは、最初と同じ。人がいなければノーブレーキだし、居ればその人の速度に合わせる。もっと距離の短いレースなら、下りの最中も漕ぎまくるだろうから、ノーブレーキは有り得ないと思うが、この時間になるとみな疲労困憊していて惰性で降っている。そんなわけでノーブレーキで位置エネルギーを運動エネルギーに変換できる。ただ結構な速度が出ているので、決して緊張の糸は切らせないこと。


橋を渡って突入する、長いダラダラ登りは、足ツリとの勝負区間だ。
決まって最初のちょっときつい登りを過ぎたあたりから足がつりだす。
左足太股、脹脛、右足脛・・・。周回を重ねる毎にどんどんつる場所が増える。
一度使う筋肉を変えようとこの場所で立ち漕ぎしたら、立ったまま足が固まってしまって、あやうくコケるところだった。あと1秒でも長くつっていたら確実に落車していただろう。危ない、危ない。
もうこの区間は、とにかく速度は度外視で、足が止まらないのを祈りつつ、ビクビク僕の意志とは無関係に動き回る筋肉の痛みに耐えながら、登るしかない。
下りで貯めたアドバンテージは一気に吹き飛び、たくさんの人に抜かれる。
女の人にも当然抜かれる。一周だけ、竹芝の女性ライダーに牽いてもらった。ちょっと情けなかったけど、ペースが少しだけ上げられてありがたかった。
コース脇に立ち止まっている人を見かけるようにもなる。おそらく足がつったのだろう。僕も自転車から降りたら、たぶんもう進めない。
止まらないように、止まらないように・・・。


ひたすら耐え忍ぶとやがて前方に、最後の下りへと続く左カーブな登りが表れる。
ここまで来ると、なぜか足ツリが納まっているのでまた全力ダンシングを開始する。
ちょっと頑張って下りに入れば休めると思えば、案外イケるものだ。
精神的なものが大きいんだろうな。
ここで先程抜いていった人達を何人か抜き返し、最後の下りに突入。
ひたすら惰性で降る。余力がある時は少しだけ回す。下りの終わりにある橋を渡ろうとする頃、惰性だけで速度は60km/hを越える。その速度をなるべく殺さないように、ホームストレート前の激坂に突入。
最初は右側を通っていたけど、明らかに勾配がきついので、一人旅を始めてからは必ず左端を通るようにした。
最初に惰性で坂を登ってしまえば、あとはゆる坂をゲート目がけて走れば良い。


最初は3時間持ったボトルが、わずか1時間で無くなり、2回目のピットイン。
よたよたとエイドステーションに立ち寄る。ボトルにポカリを補給している最中に足がつって
「ぐはっ!」
とか哀れっぽい叫び声を上げてしまう。さぞや回りの人がびっくりされた事だろう。ごめんなさい。

メイタンのショップで、またサイクルチャージを2本買おうとするもののつり銭が無いとのことで1つだけ。あまり売る気が感じられないのもどうかと思うが、レース前に準備を整えておかない自分もどうかしている。用意も覚悟も甘すぎる。


ソロ用の荷物置き場には二人程選手が寝ていた。休むのも戦略だよな・・・と思いつつ、持ち前の貧乏性で、即バイクに跨がる。こんなに自分を追い込める機会はなかなか無い。時間は後1時間を切っている。4週できるか・・・5週は厳しいだろうな・・。
幸い最後まで暑くはならなかったおかげで、意識ははっきりしている。
さあ、残ったエネルギーを吐き出しに行こう。
ぱんだ号とともに、周回毎に斜度を増しているように見える最初の坂目がけて飛び込んでいった。

  • 23周 〜 26周 そしてゴール。

もう特筆する事はなにも無い。ただ、ただ、自分との戦いだった。もちろん僕だけじゃない。みんな戦っていたんじゃないかと思う。
今まで僕が出たレースやヒルクライムとはまた違うものを感じる。精神力、そして戦略の割合が大きいというか。超長距離を走るブルベもこんな感じなのだろうか。


ドリンクを飲みすぎたせいか、お腹がタプタプしてくる。
でも脱水で倒れるよりはマシだ。


淡々と3周回ったところで、残り時間が12分となった。
間に合わない…。いや、間に合うかもしれない。
弱気な自分をねじ伏せて、最初の登りに入る。これが最後だと振り絞る。下りも踏む。
最後の登りはきつかった。
苦しいよ、しんどいよ、間に合わないかもしれないのに、なに頑張ってるんだ・・・
だけど踏んだ。
間に合わなくてもいいじゃないか。僕は苦しむためにここに来たんだから。


結果、最終周回は11分台で、ギリギリ5時前に帰ってくることができた。
すると、もう一周走っていいらしい。
カウントされるのかされないのか、よくわからないまま、本当は倒れこみたかったけど、パレードラップだと思い再度登りに入る。
カーブ毎についている監視の方に手を振りながら、最後の最後まで足つり味わいながらコースを回る。


こうやってカウントされないまったく余分な27周目を走って、僕はゴールラインを越えた。
もうお腹いっぱい、足いっぱいだ。CSCは一生分走ったと言えるだろう。
もう最終走者に近いのか、バイクラックは一杯でぱんだ号を停める隙はない。
フラフラと近くの植え込みまで移動して、ぱんだ号をたてかける。
おまえもよく頑張った。
下りでなんの躊躇も無くコーナーに突っ込めたのも、毎日自転車通勤で乗りまくって体になじんでいるおかげだと思う。


バイクの横にどさりと倒れこむ。
仰向けになって見上げた空は、曇りなのに、なんだかとてもやさしくて綺麗に見えた。


            1. +

帰りは田京という駅から輪行した。熱海までは自走というのも考えたが、今の足の状態では一晩かかっても伊豆の山を越えられない可能性があるので、大人しく山を降るだけで辿り着ける伊豆箱根鉄道を利用することにした。
三島で、東海道本線に乗り換えるために、ホームであれこれ準備していると、向こうから輪行袋を持った高校生がやってきた。三人組だ。


最後尾車両の一番後ろが自転車を置くのに都合がいいので、輪行者は、自然と同じような位置に固まることになる。


電車が動き出してしばらくすると、高校生達の会話が聞くとも無しに聞こえてくる。


のりぴーさん、すごかったな。男子と同じくらいソロで走ってたぞ」

ん、女子ソロの優勝者のことかな。たしか20周くらいだったはずだけど・・。


「ソロの人達ってピットインしてるのかな?」
「してないんじゃない?サドルにもボトルゲージを付けて4本ボトル持って走っている人いたし・・・」

いや、その人はともかく、ピットイン無しはちょっと無理です・・・。


どうやら同じように5耐に参加したらしい。
こんなおっさんに話しかけられても困るだろうな・・と思いつつ、まるで僕のツッコミ待ちのような会話をしているので、ついつい話しかけてしまった。


「君たちもCSC走ってきたの?実は私もソロで参加して・・・」

「え、そうなんですか?やっぱりピットインはしないんですか?」

「いや、2回ピットインしたし、さすがに補給しないとあのコースは・・・・」


とにかく目がキラキラしていたのが印象的だった。
いいなぁ、若いなぁ。この年で自転車に巡りあっているなんて、なんて幸運な少年達なんだろう。僕がこれからいくら乗っても、20年以上年が違う彼らには、生涯の走行距離はかなわないだろう。なにより、彼らの道は、あのツールに続いているかもしれない!


そういえば、走りながら会話した人の中にも若者が居た。実業団登録したばかりだと言っていた。長く道中をともにしたラバネロな方も二十才だと言っていた。


てっきり自転車ブームはオヤジ世代ばかりだと思っていたけど、そうでもないようだ。
確実に自転車乗りの裾野が広がっているのを感じる。


今年のツールには残念ながら日本人は参加できなかったが、あと10年もすれば、相当な数の日本人を送り込めているのではないか。
総合優勝は無理でも、ステージ優勝は当たり前のようになっているかも。


こうして僕の夏休みは終わり、どんどん濃くなる宵闇の中を、高校生と東海道本線に揺られながら帰還したのだった。



(完)

  • リザルト

26周(4時間59分55秒)
ソロ部門:4位/39人中
総合:40位/140チーム中





72.1kg (前回計測から +0.0kg 勝負開始から+0.9kg)
15.7%

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自転車部門で17位

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