2011 裏磐梯スカイバレーヒルクライム スネ毛に誓いを

3・・2・・1・・・スタート。
スタート時はグループ最後尾に位置していたので、そこから右側をスルスルと上がる。
ただし上げすぎない。
去年は1人逃げして足を使った。同じ轍は踏まない。


米沢のチーム、ホシの2名がさらに僕の後ろから集団の先頭目がけて加速していく。
「頭を・・・」
なにやら話しているのが聞こえる。
集団をコントロールする作戦だろうか。
そのうち、1名が先行し、1名が集団をひき始めた。
思惑はともかく、結構いいペース。
40km/hくらいで牽いてくれている。惜しむらくはまったく先頭交代が機能していないこと。案の定少し行くと、アップダウンを繰り返す湖畔の途中の登りで30km/h台になるようになってきた。
もうすぐコースは湖畔を離れ、山道に入る。
今回は入賞を目指しているので、少なくとも同グループの面子を逃すわけにはいかない。
頃合いを見計らって1人先行しているオレンジジャージ目がけて一気に加速する。
MTBや女性、先行スタートのAクラスの選手を抜きながら目標に到達。
僕の後ろにも数名着いてきたみたいだ。
このメンバーで回していくことになるのだろうか。


8km地点の看板をすぎる。
少しの間ホシの方の後ろについていたが、いよいよ登りが本格的になってきたので、右側から追い越しをかけ、あとは淡々と自分のペースで登ることにする。
目標300Wから350W。パワーしか見ない。速度を見ると惑わされる。
去年はこの辺で、同グループのトレインに抜かれ、あっという間に引き離された。
あの悪夢が蘇り思わず後ろをチラリと確認する。
が、僕の後ろに同グループの影は見えなかった。
どうやら引き離したようだ。
よかった、どうやら去年よりは成長しているらしい。


ひたすらにこぼれてくる人を抜きながら上を目指す。
しばらく行くと前方に同じようなペースで登る人を発見。
ゼッケンナンバー149。同じクラスAの先行スタート組だ。
少し苦しくなってきたところだったので、遠慮なく後ろにつかせてもらう。
ドラフティングの効果が低い速度域でも、ペースを作ってくれる人がいるのはありがたいものだ。


残り4kmの看板を過ぎる。
ようやくここまできた。残りは不動と同じ距離だ。
そろそろ足がきつくなってきたが、ここがスタートラインだと自分に言い聞かせる。
先程までは濃い緑の中を走っていたが、ここまで来ると一気に視界が開ける。
同時にすごい突風も襲ってくる。
ペーサーにさせて頂いていた149の方もつらそうだ。
ここで僕が前に出る。
ケイデンスが上がらない。パワーは依然として300W近辺を維持できている。
ということは勾配があがっているのだ。
さすがに60台のケイデンスは遅すぎる。たまらずダンシングを入れるが、ひたすらに同じような勾配が続くため決して楽にはならない。
徐々にパワーが下がり、270W台を差すことが多くなる。
なんとなく昨年走った結果から、不動と同じくらいの勾配をイメージしていたが、絶対こちらの方がきつい。痛恨の作戦ミス。
僕程度の脚力ではもう一枚軽いギアを用意したほうがいいみたいだ。
来年はきっとそうする。でも今はとにかくなんとか踏むしかない。


きつくなってきた。
300Wが維持できない。ダンシングしようと腰を上げると、突風に押し戻される。それどころかハンドルを持っていかれそうになる。危ない。
逆に追い風区間もある。
本当はその時に重いギアを踏んで加速しなければならないが、どうしてもパワーが下がる。休んでしまっている。駄目だ、ハートを、気持ちを維持しなければ。


何度目かの追い風区間に入った時、僕の後ろから149の方が猛然とダッシュしていった。
まったく追いつけない。絶妙。うまいとしかいいようがない。
ていうか、なぜあの人が私に追いつかれたのか理解できない。確実に格上だ。アップ不足だったのだろうか。


標高があがり、さらに厳しい時間帯に入る。胸の奥底で休みたいという声が徐々に大きくなってくる。
わざわざお金と時間を使って苦しみに来ているのに、そこから逃げ出したいとは、我ながら矛盾している。
家族にもたくさん迷惑をかけた。
駄目だ。休むわけにはいかない。


目はきょろきょろと残り1kmの看板を探す。
たしか、そのあたりから勾配が楽になるはず。
勾配が楽になったらスピードが増すだけで、決して楽にはならないのだが、疲れのためか思考がうすっぺらくなっている。
早く、早く、残り1kmの看板よ表れろ・・・。


その時、後ろからやってきた影に猛然と抜かれる。AMANDAのフレームだ。
おそらく重いはずのフレームで颯爽と駆け上がっていく。本物のクライマーか。
ジャージ脇のゼッケンを見て目を見張る。なんと300番台だ。
僕が213番。いったい何グループ後ろからスタートしたのだろう?
とにかく着いていかねば。


右手の中指を内側に押し込む。
僕の意志がワイヤーを通してリアディレイラーに伝わる。
カンカンッ!
一気に重くなったギアを無理矢理踏み込み加速する。
心なしか勾配も緩くなってきた。行くしかない。
ぴったりとAMANDAの人の尻に貼り付く。どうにか貼り付けた。
逃すわけにはいかない。逃したら、きっと心が折れる


既に残り1kmを切っている。たしか昨年はこの辺で40km/h程度出していたはず。
記憶だけを頼りに、フロントをアウターにかける。
さらにペダルが重くなる。・・・いや、これ、さすがに重すぎるだろ。
だけど根性で踏む。
毎日晩酌を我慢したのはなんのためだ。
毎食カロリーを気にしながら、食べた後も空腹を感じていたのはなんのためだ。
一度づつはわずかな我慢でも毎日続けるのは本当につらく、しんどかった。


全ては今、ここで踏むため。


AMANDAな人を抜きまた先頭に立つ。
僕より相当後ろからスタートした方だから、タイム的には完全敗北だけど、少なくともゴールラインは先に越えたい。


去年ほどスピードが乗っていない気がする。
去年より出し切っているからか。踏め。踏め。体がついてこないなら、心で踏め。魂で踏め。


だけど、彼の人の方が数段役者が上だった。
おそらく先程僕を前に出したのも作戦だったのだろう。
ゴールが見えてきたところで、すごいスプリントで一気に追い抜かれる。あっという間に離される。

全然着いていけない。
くぅ、ここまでか。でもまだ緩めちゃいけない。ゴールを越えていない。
肺が熱くて痛くて息もできないけれど、不思議と心は満ち足りていた。
あとゴールまで数メートル・・・どうにかここまで辿り着けた。
ここまで自分の中から苦痛とパワーを引きずり出すことができた。


僕はみっともなくヨダレを口のはしから垂らしたまま、ゴールラインを越えた。
計測器が ・・・ピッ・・ピッ・・・となって僕のレース終了を教えてくれた。



      1. +

レース後、Twitterでフォローさせて頂いている @makorin745さんに挨拶する。
この方、僕と同じくらいの身長なのに体重は63kgとのこと。
当然僕より速い。ていうか勝負になっていない。


funrideのハシケンさんにも挨拶した。
アスリートクラス6位入賞らしいとのこと。
さすがすぎる。


さらに久々に再会したサカイさん、その奥様は、女子クラスA優勝しておられた。
憧れのXXXLITEホイールを履いていたが、当然すぎる装備だった。
この人、来年あたりヒルクライムの女王、金子広美さんに勝っちゃったりして。
今のうちにサインもらっておこうかな。


僕は、もう色々と、まだまだ・・全然まだまだ・・本当にまだまだだった。
満足している場合じゃない。
ガツンと思い知らされた。
足りないものばっかりだった。
体も心もまだまだ準備不足だった。


おそらく次のヒルクライムは、来年の草津だろう。
その時こそ、体脂肪10%を切っておこう。
68kgが目標体重っていうのもまだ甘い。せめて65kgは切らねばなるまい。


僕はスネ毛を剃っていないが、いつか自分が自転車乗りに相応しい足を持った時に剃ろうと決めている。
今までは漠然と体重68kg以下になったら・・・と思っていたが、65kg以下、体脂肪率が10%を切ったらってことにしよう。


来年は必ずスネ毛を剃って、白根山の麓に立つ。
つくば山の麓にも立つ。
そしてもちろん、ここ裏磐梯にもだ。


再び勢いを増し始めた山頂の嵐に拭かれながら、そっと脹脛をなで、そこに生い茂るスネ毛に人知れず誓いを立てたのだった。

                              • -

タイム: 04:10.9
順位: Aクラス 8位/239人中

公式リザルト




funrideハシケンさんと記念撮影。




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ただいま緩め中。
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