2013 もてぎエンデューロ 7時間 ソロ 参戦記 序盤

11時54分。スタートからそろそろ3時間が経過する頃、それはついにやってきた。
場所は左足内側、太腿のあたり。
びきびきと刺すような痛みが駆け登ってくる。


意思とは真逆の方向に勝手に暴れだそうとする筋肉をなだめすかしながら、どうにかペダルを回す。場所はホームストレート直前のド平坦区間
もし集団が突然活性化すれば僕のレースはジ・エンドだが、この位置、この時間帯ならそれはまずあり得ない。


集中力だけは切らさないように、前走者の後輪を睨みながらぎこちなくペダルを回し続けると、やがて集団はコースに唯一存在する登り区間に突入した。
同時に足の攣りが嘘のようにひいていく。使う筋肉が変わったからだろう。
基本的に平坦基調のコースレイアウトだから、平坦向けの筋肉がいち早く限界に達したということか。
いつも僕を引き釣り下ろそうとする重力に呪いをつぶやきながら走る登りに救われ複雑な気分になる。
ド平坦のみのコースレイアウトならここで終わっていたかもしれないが、この調子ならまだまだ走れそうだ。


どうやっても攣りから逃れられない事はわかっていた。
毎年正月に走っているもてぎでは80kmあたり、2時間を過ぎた頃から襲ってくるというのに、7時間無傷で走りきれるはずがない。


過去の経験上、これが襲ってきたからといっていきなり走れなく事はない。しかし打ち寄せる波の如く強弱を加えながら確実に筋組織を僕のコントロール配下から奪っていき、やがてその量がしきい値を超えた時、ペダルは止まり先頭集団は僕を置いて去っていってしまう。


これを避けるためにとるべき手段はひとつ。
ひたすら省エネに徹することだ。
幸いな事に集団に乗るみなも同じ思いのようだ。
軍隊のごとき規律正しい一定のペースで、黙々とラップを刻んでいく。
アタックは無い。逃げもない。先頭で風圧を退け続けるプロが背中が頼もしい。
現時点においてこの集団の唯一の目的は、ただ時間を消費することだ。


いつの間にか一緒にこのコースに乗り込んだ、ちょびんさん、シクロさんの気配が消えていた。
いつぞやもてぎの集団走行を椅子取りゲームに例えたことがあったが、7時間耐久はまた違うゲームだ。ひたすら棒にしがみ続けるシンプルなゲーム。戦術はいらない。かけひきもない。握力がゼロになったものから脱落していく。


ゲージに差したボトルにはまだたっぷり濃い目につくったポカリが残っている。
定期的にスポーツようかんなるものも口にしている。
あまりかまなくても飲み込めるのがありがたい。


見渡せば7時間ソロ組はまだまだたくさん集団に残っている。
まこっちさん、ミポさん、アマチュアライダーにとってのスターも同じ集団に居る。
みんな苦しくないのだろうか。まだ序盤と言っていいこの時間帯から足をビキビキ言わせているのは僕だけなのだろうか。周囲を見回しても表情からはなにも読み取れない。
細かいニュアンスはロードノイズがかき消してしまう。


おそらく本当の戦いは13時以降、4時間耐久組がコースを去ってからはじまるのだろう。
それまではなんとしてもこの集団に居続けたい。自転車に乗らなければけして味わうことのなかった、このスピードと距離と苦痛の先にあるものを見届けたい。


今度は右足に移った攣りをなだめすかしながら、癒しの登り区間目指してサーキット上を周回していった。


[続く]




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