2013 もてぎエンデューロ7時間ソロ 参戦記 終盤そしてゴール

じりじりとボトルの水が減っていく。
催さないということは、体が要求している水分がとれていない、という事でもある。
そのためか、時間が経過する毎に、一度に摂取する水分が増えているようだ。
残り時間があと30分となる頃、ついにボトルが空になった。


30分...。持つかもしれない。持たないかもしれない。
持たない場合、最悪水分不足で熱中症、落車、リタイアという結末も考えられる。
自分の状態を考えれば、持つほうにかけるのはちと分が悪い。


まずいと思いつつなすすべも無い中、下りの入り口に差し掛かった時、コース左側に救いの神、もといちょびんさんの姿を発見。


大声で呼びかけると、向こうも心得たもので
「補給食?水?」
とすかさず問い返してくれた。間髪いれず


「みずーーーーー!」


と返す。
高速巡航する先頭集団脇にわざわざ寄せてくれたちょびんさんに、ぐいっと空になったボトルを突き出す。プロと違いボトルを投げ捨てるわけにもいかない。
ちょびんさんは片手しか使えない中、相当苦労して空のボトルとほぼ満水のボトルを交換して僕に渡してくれた。本当にありがたい。


「あざーーーす!」


気分は空中で燃料補給を受けた戦闘機。これで燃料の残を気にせず戦える。
久々に大量の水分を口に含みながら、多少は余裕が出てきた頭で残周回数を考える。あと30分なら、多めに見ても5回というところか。


ここまで来て、ようやく最後まで持つであろう確信が得られる。ただあくまで集団に残る足だけはなんとか、という話だ。
逃げができたら仕方ない、それは見送ろう。
最後まで先頭集団に居られれば、それで本望だ。


しばらく行くと、それは現実となった。
もれ聞こえてくる強豪同士の話からするに、どうやら1チーム逃げているようだ。
集団が追う動きをするのであれば流れに着いて行くだけだが、結局諦めたようだ。


スタートから7時間、16時まで残り3分程を残してスタートラインをまたぐ。これがラストラップだ。集団は周回遅れを吸収して、相当な厚みになっている。最後の登りでアタックがあったかもしれないが、これだけ選手が居ると即座に何人もが食いつき飲み込み、結果的に多少のペースアップにしかならない。


下りが終わり、高架をくぐり、一番危険だと思っていたカーブを回る。


ようやくだ。


7時間の長い長い戦い果てに手に入れた、スプリントに参加する権利。
入手することすら覚束なかったのだから、行使することなどまったく考えていなかったけれど、ここまで来ると欲が出る。


果たして同一周回数に何人ソロが残っているのか。
レース中の視界が不足している僕にはわからない。勝手に10人くらいとあたりを付ける。
ならば狙うのは入賞、6位以内だ。


最終コーナーを前にして、視界が開けてくる。
入賞を狙って僕が集団前方に展開しているのもあるが、周回遅れの人達が道を譲ってくれたのかもしれない。


突如黒の竹芝ジャージ、ミポさんがダッシュした。ロングスプリントだ。
こんな遠くから届くのだろうか。


それを合図にしたかのように、少なくなった集団がさらにバラける。戦闘態勢に入ったのだ。ただここまで生き残った絶対数が少ないためか、随分選手間に余裕がある。突入コースは選び放題だ。
僕は緑のイナーメジャージ、まこっちさんに目星をつけ、さんざん集団を引いてきたとは思えないスプリントフォームの後ろに張り付いた。
この人の前に出られれば、きっと入賞できるに違いない。


申し訳ないと思いつつ、ゴールライン10m手前で前に出る。


ふめ、ふめ、ふめ、ふめ、ふめ!


数瞬の後に7時間待ち望んだゴールラインが、僕の前方から後方へとあっさり流れさっていった。



+++++


ベースキャンプまでたどり着くと、既にちょびんさん、シクロさんが座り込んでいた。
顔が白い。長時間のレースで、吹き出した塩が、厚く塗ったファンデーションのように顔を覆っているのだ。

ちょっぴり吹き出しながら僕もどさりと座り込み、そのまま寝転がる。
きっと僕の顔も真っ白になっていることだろう。
これは勲章だ。7時間走りきった者だけが得られる名誉の証だ。


しばらく休んだ後、結果が貼り出された場所に行ってみる。
なんと入賞していた。
ソロ部門で4位、7時間全体でも7位だ。


ウッヒョー!と小躍りしながら今日のレースを支えてくれた仲間に報告すると、自分の事のように喜んでくれた。僕はなによりそれが嬉しかった。ちょびんさん、シクロさんが運んでくれたボトル無しではこの結果はありえない。全員ソロ参加ではあったけど、これはチームで得た結果だ。


表彰式では残念ながら3位までしか表彰台に登れず、クリリンと記念撮影するチャンスは逃したが、それは些細な事だ。
もう一度走ったとしても、これ以上の結果は得られないだろう。
最後まで走りぬき、あのスプリントに参加できたという事実が僕を充足感で満たしている。そもそもまる一日家を空けてレースに参戦できるなどという贅沢、そうそう味わえるものではない。



そう言い聞かせても、まだ僕の上に後3人居た、という事実がチクりと胸の奥の奥、僕が押し込めているなにかを刺激する。


スプリントはできない、登るのも遅い僕には、おそらくエンデューロ系のレースが一番合っている気がする。
一番あっているレースで・・・。
そんな気持ちがどこかにあるのだろう。たぶん。


次はいつになるのか。来年かもしれない。数年後、下の子供が小学校に入ってからかもしれない。
それでもまだ40代。きっとまだいける。


とても紙には書き出せない心の中のTODOリストにこっそりと1行付け加え、僕は仲間と共にツインリンクもてぎを後にした。



++++

リザルト
週回数:60
TIME:7:03:23.449 (1:39.766 +TOP)
平均時速:40.81
7時間ソロ:4位
7時間総合:7位





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